っていうか、中忍になりました。
ええええっ!?下忍になるのに4年くらい(まあ、九尾の事件が少し引きずってはいるが)かかってんのに中忍になるのにたった1年半っておかしくないか?おいっ!
と、まあ、半端でないくらい動揺しつつ、俺は登録所を後にした。
ほくほくした顔を押さえられず、子どもみたいにはしゃいでる自分がいた。
うわーうわー、ベストもらっちゃったよ。これでもうしっかりばっちり中忍だってさ、どうしよう、すっげえ嬉しい。
カカシに連絡しないと、俺中忍になったんだって、やっと正々堂々会える。ただうずくまってただけのあの頃みたいな俺じゃない。ちゃんと地に足付けていっぱしの忍びとして胸を張れる。そうだ、あの頃みたいにお互いを頼って甘やかしてどろどろになるなんてことはないはずだ。
そしてふと気が付いた。
あ、そういや、俺、カカシの住所知らない...。今までずっとアスマ兄ちゃんからうわさ話みたいなのを聞いてただけだから、本当に知らないんですけど。
困ったなあ、いつもはカカシの式で連絡が来たけど、あれから式は来なくなったし、俺はまだあんな高等な式は作れないし。そう、あの類の式は高等なものだったのだと今なら解る。あれは中忍でできるような術じゃない。いや、できる奴もいるかもしれないけど、かなりの手練れた者でないと無理だ。半端な技じゃない。
いやいや、カカシ自慢をしたいわけじゃなくて、これからどうしたものかなあ。
まあ、とりあえずアスマ兄ちゃんには合格したことを伝えるか。もう上忍になっているから、上忍の待機所にいる可能性が高い。下忍風情が行くのはかなり躊躇したものだが、中忍の自分だったら、なんとか、ほんのちょっとは、大目に見てくれると思いたい。
なーんて段々と気持ちはしぼんでいったけど、それでもアスマ兄ちゃんは俺にとって本当に兄ちゃんみたいな存在だから、打算はなくとも中忍になったって、知らせたいのだ。
俺はアカデミーへ向かい、受付近くの上忍待機所まで走った。
そして待機所の前まで来ると、深呼吸してノックした。

「失礼します。アスマ上忍はいらっしゃいますか?」

と、勢いよく言ってみたものの、そこにアスマ兄ちゃんの姿はなかった。あれぇ?普通ならここにいるだろうに、おっかしいなあ?

「どうしたっ!!アスマに用か!?」

キョロキョロしていると目の前に現れたのは、濃ゆい眉毛と恰好をした人だった。

「あ、はい、しかしここにはおられないようなので出直してきます。ありがとうございました。」

俺は頭を下げて部屋を出ようとした。

「まあ待て、君はこの間の中忍試験に参加した者だろうっ!?」

よく解ったなあ。あ、でも中忍試験は里を上げての大々的なイベントみたいなものだから知っている人も少なくはないのかもしれない。

「あ、はい、おかげさまで、本日をもって中忍に正式に登録されました。それで懇意にして頂いているアスマ上忍にもご報告をと思ったのですが。」

「そうかそうか、立派な心がけだなっ!!恩義ある人に報告するのはイカス男への一歩だっ!!」

なんか、熱い人だなあ。見かけはまだ青年だろうに、その濃さでなんだか人生を卓越しているのではないかと思わせる雰囲気がある。アスマ兄ちゃんと違う風合いでここまで貫禄のある人も珍しい。

「アスマは今少し席を外しているがまた戻ってくる。何せこの後俺とツーマンセルで任務をすることになっているからなっ!」

おいおい、任務前に班構成を口に出していいのか?ここが上忍待機室で、他には数人しかいないし、きっと誰も裏切る者はいないんだろうと理解できるけど、機密保持っていうか、もう少し控えめに話してもいいのでは?という心の中の危惧を言えるわけもなく、俺は任務前だったと言うことに少々の申し訳なさを感じた。

「そうでしたか、任務前にすみません。」

「何を謝ることがあろうかっ!喜ぶべき時は諸手をあげて喜ぶべきだっ!!しばらくはここで待つといい。」

「えっ、いや、俺中忍になりたてですし、上忍の方々がいらっしゃる所で長居するわけにはいきませんよ。」

何を言ってるんだこの人はっ。中忍なんだから足を踏み入れるのでさえかなりの覚悟をしたって言うのにそこに居座るなんてできるはずがないだろうに。
だが、濃ゆい人は引かなかった。

「何を遠慮しているのだっ。お前は木の葉の里を担う忍びとして偉大な一歩を踏み出したのだ。この喜びは人生の中でも最上とも言えるだろう。さ、ソファにでも座って待ちたまえ。同じ木の葉の忍、何も恥ずかしがることはないっ。」

いや、恥ずかしいんじゃなくて、階級とか、待機所なんだからあんまりうるさくしたらいけないんじゃないかなあ、とか気を遣ったつもりだったんだけどなあ。
その濃ゆい人は俺の返事を待つことなく、俺の手を引いて、半ば強引にソファに座らせた。そして自分はその前に仁王立ちになる。
うわあ、リラックスできないな、これ。悪い人じゃないんだろうけど、なんて言うか、インパクトがありすぎるって言うか。

「そういえば君、名前はなんだったかな?すまない、中忍試験は見ていたのだが名前は忘れてしまった。」

ははははは、とさわやかに笑う目の前に人に俺は慌てて立ち上がって言った。

「これは失礼を、うみのイルカです。上忍の方には、これからご指南、ご指導の程よろしくお願いします。」

「うむ、礼儀正しいな、イルカ。俺はマイト・ガイだ!これから任務先で一緒になることもあるだろう。その時はお互いがんばろう!!」

「はいっ。」

なんか、いい人だな。ちょっと強引だけど好感が持てる。
その時、部屋の中にひらり、小さな白い影が飛び込んできた。その見知った影に、俺は不覚にも泣きそうになった。
白い蝶の形をした式は、ふわりふわりと舞いながら、俺の肩に留まった。

“ 今日、行くよ ”

カカシの声で微かに囁かれた言葉に俺は目を閉じて笑みを浮かべた。

「イルカ、今の式は?大変美しく繊細で芸術的だったが。」

目を開けてガイ上忍を見ると、腕を組んで感心している。上忍の人をも感心させる程の技術なのか、あの式は。

「友人のものです。俺が中忍になったって聞いたみたいで、」

「ほう、友人か。あそこまで緻密に計算された式はなかなかお目見えすることはない。よほど卓越した者だろう。心根も美しいのだろうな、あの純白に輝く色は心を和ませる。」

言われて、俺は満足げに微笑んで頷いた。そうなんですっ、あいつは優しい奴なんですっ。
笑顔で肯定すると、ガイ上忍もさわやかなスマイルで言った。

「一度会ってみたいものだなっ!!」

ガイ上忍はえらくあの式をお気に召したようだ。

「ではいつかご紹介しますよ。」

「うむ、頼む。」

言うとガイ上忍はキラリと歯を見せて笑った。
ガラ、と戸が開く音がして振り向くと、アスマ兄ちゃんが入ってきた所だった。

「お、イルカじゃねえか。こんな所で何してんだ?」

「この度中忍に合格しましたので、恩義のあるアスマ上忍にご報告をしたく、はせ参じました。」

「なーにかしこまってんだよっ。中忍になったってな、聞いてるよ。よかったなぁ。」

アスマ兄ちゃんはがしがし俺の頭を撫でまわした。嬉しいけど、俺は犬っころじゃねえっつの!

「アスマ、青春を謳歌している所をすまんが、そろそろ任務に行かなくてはならない時間だ。すまないな、イルカ。」

うわっ、上忍に謝られちゃったよ俺。大体押しかけたのは俺の方なんだしっ。俺はわたわたしてぶんぶんと首を振った。

「と、とんでもないっ、俺の方こそっこんなところまで押しかけてしまって、」

「なあに、気にするなっ、誘ったのは俺だっ!」

うん、まあ、その通りなんですけどね。
2人はそれからすぐに上忍待機室を出て行った。俺も一緒に失礼する。
今日はカカシが来る。何を作ろうか。2人分のご飯を久しぶりに作る。何が食べたいだろう、あ、いやいや、今日は俺の中忍合格のお祝いなんだから俺が好きなものを作らないと。でも、カカシと久しぶりに会うんだから、2人の再開を祝うべきなのか?どっちなんだっ。わかんねぇっ!!
まあ、まだ時間はある。しばらくは落ち着ける場所で考えるとしよう。
俺は密かにお気に入りとしているアカデミーの裏山へと向かった。